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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart58【創作】

1 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 12:30:35 ID:BfPurKuq0
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1213674570/
まとめサイト  (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm
WIKIまとめ (ゴート氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss



2 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 12:31:42 ID:BfPurKuq0
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・戦闘神話  下・VP(銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/501.html
永遠の扉   (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
1・ヴィクテム・レッド 2・シュガーハート&ヴァニラソウル
3・脳噛ネウロは間違えない 4・武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイ氏)
 1.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/34.html
 2.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/196.html
 3.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/320.html
 4.http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/427.html
のび太の新説桃太郎伝 (サマサ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/97.html

3 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 12:35:24 ID:BfPurKuq0
上・その名はキャプテン・・・ 
下・ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない―(邪神?氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/captain/01.htm
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/453.html
モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜 (ぽん氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/400.html
ロンギヌスの槍 (ハシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/561.html
上・HAPPINESS IS A WARM GUN 下・THE DUSK (さい氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/608.html
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/617.html
しけい荘戦記 (サナダムシ氏)
 http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/634.html
○○分で書く! (VS氏)
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1213674570/364-367

4 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 12:37:45 ID:BfPurKuq0
ハイデッカさんいつもテンプレお疲れさんです。
ハシさん、ティア姉さんがかっこいいですなー
次の作品の構想もあるみたいで嬉しいです。
スプリガンはやっぱりいいなー


5 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 14:32:38 ID:RkZ0pikQ0
1さんハイデッカさん乙。

ハシさん、ロンギヌスいつも楽しみにしております。
優とティアのコンビは強力だけど、どちらもケアレスミスが多いので
そこを敵に突かれないかと心配だ。

6 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 15:24:46 ID:a/XxBSwb0
1さんハイデッカさん乙です。
それとハイデッカさん、殺さないでくださいw
またいずれ舞い戻りますよ、仕事の果てより…

職人の皆さん、感想書けずにすみません。
これからも陰ながら応援しています。

7 :作者の都合により名無しです:2008/08/17(日) 19:56:02 ID:QS6n79X+0
1さんハイデッカ氏乙。
ところで>>6さんは誰?


ハシさんが朧を書いてくれるそうで嬉しい
ティア>朧とかいってる奴はスプリガン深く読んでないな
どう考えても最強は朧

8 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:44:08 ID:44cREFwGP
第070話 「滅びを招くその刃 其の捌」

 太陽がいよいよ中天に上り詰める頃、銀成学園からはぼつぼつと人影が吐き出されつつ
あった。
「急に日曜日になったからいつものように部活へきたけど」
「なんか調子が狂う」
「練習にならない」
 口々にぼやくジャージ姿の生徒達は、どうやら運動部の練習にやってきたらしい。
 ここ銀成市は、鐶の年齢操作にて突如土曜日から日曜日へと日付が進んでいる。
 運動部の生徒達はこの異常な変化に戸惑いながらも一応いつもの予定通り登校し、『日曜
日の』部活動にいそしんでいたワケだが、下校途中の彼らがいうようにどうも勝手が違う。
 そもそも時間の流れが正常ならば既に土曜日の夕食をたいらげている頃なのだ。
 どうも人々の体は鐶の年齢操作とは無縁で、上記の機微のもと営々と生命活動をこなして
いる。だから、変わった」という理性的な認識とは無関係にそろそろ日中活動の疲れが出てき
ているのだ
 にもかかわらず学校にわざわざきたのは、「時間が進んでいる」という奇異を肌で以て味わっ
てみたい、経験して市外の人間に自慢したい、という一種の興奮が疲労を忘れさせていたせ
いだが、しかし慣れてくると存外つまらない。いかに先取りできようと所詮はただの日曜日。ジャ
ンプが祝日の関係で土曜日に発売されて「ラッキー」と喜んでも、次の月曜日までの十日間を
想像してやがてげんなりするように、朝三暮四じみた感覚……日曜先取りも一種心躍る土曜
日の夜を犠牲にしているのではないかという推測が疲労を突きつけている。
 うら若い生徒でさえそうなのだから、夕食時にビールと枝豆で一杯やってた運動部顧問の歴々
の落胆は輪をかけてひどい。
 柄の間の休息もないのか、そうは思うが仕事は仕事。
 仕方ないと重い足を引きずって銀成学園へやってくる心持ち、さながら雪の日の出勤の如く
だ。子供なら雪は喜ぶ。物珍しげに踏みしめて、意気揚揚と登校するだろう。だが二十代の半
ばを過ぎてしまうと雪などは通勤の邪魔でしかない。
 ……現在銀成市に巻き起こっている時間の奇妙な進行も然り。
 平穏無事に仕事が済んで月一回の給料日まで安心して暮らしたいと願っている者にとり、お
かしな変化など願い下げ。

9 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:47:37 ID:44cREFwGP
「変化」そのものの珍しさに一瞬目を輝かせたとしても、社会人として培った思考力は「変化」
が自分にもたらすマイナス要素をいくつもいくつもあげつらう。
 で、生徒の飽きと教師の嫌気の利害が合致した結果、銀成学園からは教師を含む人影が
ぼつぼつと吐き出されつつある。とまあ、そういうワケだ。
「だいたい今日は日曜日かどうか怪しいし」
 日付時代は厳然として変わっているのだが、まあそういう学術的な事実よりも楽な方向へ
逃げるのが人間であり、彼らを責められる者も特にいない。だいたい部活動だから授業カリキュ
ラムに影響もない。弱小ならやる気もない。雨が降ったらお休みで風が吹いたら遅刻して。
 といってもまだ残っている生徒も運動場にはちらほらと散見できたが。
 一人でサッカーボールをドリブルする者、手慣れた様子で投球練習をするバッテリー、トンボ
を持って地ならすマネージャー。きっと彼らは部活に青春を賭けているのだろう。
 体育館の方では剣道部の面々が、昨日からさっぱり姿の見えぬ秋水に首を傾げながらも「ま
あたまには休息も必要か」と勝手に納得し、或いは生真面目な副会長が、そういう機微にさえ
目を向けたのが少し嬉しくなったりもした。もっとも性格をいうなら連絡もなしに二日も部活を休
むも奇妙さこそ考えるべきだが、いやいやしかしまあまあしかし、青年ならたまにはそういう野
暮ったい機微を忘れて遊ぶのもまた良しと、剣道部一面は秋水不在を責めたりしない。
 その横ではバスケのドリブルの音がだむだむ響き、バトミントンのシャトルもネットの上をきび
きびと往復したりと、ごくごくいつもの情景だ。
 そして運動部に比べると流石に比率は低いが、文化部の生徒も校舎のあちこちにいた。
 中でも一番活力があるのはまひろ属する演劇部である。
 まだ日付が「土曜日」の頃、まひろが「明日練習がある」といった通り、日曜日たるいまは練
習の対象なのだ。
 借りた教室にはまひろとヴィクトリア、千里に沙織を始めとする何人かの生徒。
 彼女らがサボらずやってきた理由の一つには、千里のマジメな牽引力あったらばこそだろう。
 だが。

 ヴィクトリアは悩んでいた。
(アイツ、いつになったら帰ってくるのよ)

10 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:49:14 ID:44cREFwGP
 探しに行きたいが秋水から「寄宿舎に帰れ」といわれてもいる。そんないいつけなど別に破っ
てもいいのだが、後でいちいち生真面目な謝罪とか説教とかをされるのも癪に障る。だいたい、
秋水相手にそこまで必死な態度を見せるのも苛立たしい。かといって放置するのも胸がもや
もやして気分が悪い。
(というか何であの後すぐにママの細胞を培養しなかったのよ私。馬鹿みたい……)
 もともと細いが更にへこんだ腹部をさすると、やるせないため息を吐いて机に顎を乗せた。
 沙織の件が一段落した後、密かに蝶野邸宅へ行って散乱した器具を整えて、アレキサンド
リアのクローンを培養し始めたのだが、まだできるまでには時間がかかる。

 お腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいたお腹すいた

 無数の言葉が脳髄の歯車を回していろいろ連動した結果、膝から下がばたばたと動いた。
 振り子のような風を脛に浴びつつヴィクトリアは自分の不手際を呪った。
 沙織捜索に駆り出したまひろの空気の読めなさはもっともっと呪った。
 その呪われた少女は教壇の上で何やら異常者のように感情を爆発させたが、別に発狂した
のではなく台本に沿って声を上げたにすぎない。
 ヴィクトリアはそれが残念でならない。
 どうせ常に発狂しているようなもんだからもう一度発狂すれば却ってまともになるんじゃないの。
 と毒舌交じりに卵のように丸っこい頭を眺めると、ますます空腹感が募ってくる。
 いっそ本当に死なない程度にだがかじってやりたくなる。
(柔らかさだけならたぶんマトモな筈……)
 口の中に唾液が満ちる。柔らかい肉を咀嚼する感覚を想像するとたまらない。
 ただ、その後のまひろのやかましさを想像するとどうにも面倒くさそうだ。

「だ、大丈夫びっきー? ちゃんとお腹いっぱいになった? もし足りなかったらもっと食べて
いいよ! そうだ! お尻のお肉とかなら余ってるから大丈夫!」

(そういうに決まってるじゃない)
 はあ、と瞳を細め机に額を乗せると、演劇部の台本のタイトルが瞳いっぱいに広がった。
(ああ本当に鬱陶しい。化物とか責められる方がまだマシよ)

11 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:50:45 ID:44cREFwGP
 きっとまひろはアンパンマンになったつもりで自分の肉を差し出すに違いない。トモダチを助
けるのは当然とかなんとかで。
 そういうのがバカバカしいので、ヴィクトリアは目下のところ空腹を騙しだまし耐えている。
 耐えられるのは精神の余裕のせいだろう。
 といってもあまり放置すればどうなるか、保証の限りではないが。

 まひろもまた悩んでいた。
(秋水先輩、大丈夫かなあ……)
 とは敗戦を知らぬ彼女ゆえの思考だ。ヴィクトリアも防人もこの件については口を閉ざしてい
るで分からない。
(ううん。きっと大丈夫。秋水先輩は強いからきっと大丈夫! 帰ってくるって約束したもん!
だから今は演劇に集中ッ!)
 ぶんぶんとかぶりを振ると、珍しく暗記したセリフを朗々と大きく述べた。
 すると右手に握った台本が必要以上に握りつぶされ、千里がたしなめてきた。
 内容は耳に入らない。視線も意識も机にだるそうに突っ伏すヴィクトリアに吸い寄せられた。
(ガス欠!?)
 困った。頭ぐらいならやってもいいが、千里や沙織の目があるから出来ない。まひろはいつ
かちゃんと空気を読める人間になりたいので、人目を忍びたいのだ。

 沙織も悩んでいた。
(夏休みの宿題はなぜかちゃんと片付いてたけど)
 まひろがただならぬ要素で眺める少女の正体がよく分からない。
(誰なのあのコ? なんで外人さんがうちの学校に?)
 鐶になり変わられ、しばらく地下で眠っていたせいで、ヴィクトリアをよく知らない沙織だ。
 幼い顔を引き攣った笑みにくしゃくしゃにして、ただまひろ⇔ヴィクトリア間を眺めるばかりで
ある。

「……なんだか私だけ蚊帳の外のような」
 困惑の千里はため息まじりに少女たちを見るほかない。
 彼女は知らない。
 そんな銀成学園から二キロメートルと離れていない路上で、いつ終わるとも分からぬ戦いが
繰り広げられているのを。

12 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:52:13 ID:44cREFwGP
鐶がツバメに身を変え桜花に突撃すれば電柱から出た根来の腕が翼をばさりと切断し、た
んと地を蹴り鐶が短剣を振りかざせば紅い弧円を斗貴子は跳躍で回避。
 そして後ろに控えていた剛太が短剣の主へと飛び蹴り。
「体重が軽すぎるんだよ」
 踵で唸る戦輪に顔を斜めに斬られた鐶は、衝撃で軽く後退。その腹に間髪入れず四本の処
刑鎌が直撃。しかし斗貴子の表情は芳しくない。
(攻撃そのものは当たっている。ダメージだって与えている。なのに!)
 臓物をブチ撒けた処刑鎌を引くより早く鐶の傷はふさがった。
「また回復! 一体何度目だ!!」
「まぁまぁ。ダメージを与えていればいつかは倒せるわよ」
 歯ぎしりする斗貴子の横を桜花の矢が通り過ぎ、鐶に着弾。そこへ防人が打撃を加えて人
気のないオバケ工場へと誘導。それが目下の作戦概要だ。
 いつしか舞台はビルが立ち並ぶ市街地から閑静な住宅街へと移り、今はさほど広くない道
路で肩をぶつけるように戦士がひしめき合っている。
(あれ? オバケ工場への誘導なら私があのホムンクルスを掴んじゃえばいいんじゃ?)
 千歳はふと気付いた。だいたい彼女はあまり活躍していない。ならばココでヘルメスドライブ
の特性──瞬間移動──で鐶をオバケ工場に誘導しちゃえば大手柄。みんな褒めてくれるに
違いない。根来さえ目を輝かせて「さすがは戦士・千歳!」と喜ぶに違いない。
(オバケ工場ならさっき調査に行ったし。よし)
 意気揚揚とタッチペンを持つとレーダーに映る鐶を鼻歌交じりにクリックした。
(私だって頑張ればできるんだから!)
 スッと姿を消した千歳は鐶の背後へ回り込み──…
「何か……用、でしょうか」
 頭の上を通り過ぎる針金のような三本爪に頭頂部の髪をうっすら斬られた。
(ひええええ〜! 気付かれてる!)
 しかも虚ろな瞳のまま短剣を振りかざしてくる。次に当たればそれこそ千歳は赤ちゃんにな
る。彼女は慌ててもう一度瞬間移動して難を逃れた。
「やれるのか?」
「やれない。怖い。絶対ムリ!」
 言葉少なげに鐶を指さす根来に、千歳は全力で首を振った。勢い余って三つ編みが肩と水
平に飛ぶほどに。

13 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:53:35 ID:44cREFwGP
 鐶は異様に鋭い爪を振り回し、周囲の塀をサイコロ状に切り刻みながら防人、斗貴子、剛太
を一人で相手にしている。周囲を飛ぶカラスもその気迫に気押され、つかず離れずの場所を飛
ぶのが精いっぱい。それでも時々羽毛の先端が薄く斬り飛ばされるらしく、驚いたカラスのし
わがれた叫びが怨嗟のように木霊している。
 光景たるやあたかも修羅の地獄だ。
 千歳は悟った。自分などが介在できる次元ではないと。
 瞬間移動で接近するのはできるが、オバケ工場までの跳躍まで無事でいられる相手ではな
い。さっき桜花を助けた時でも瞬間移動の前後に攻撃が(桜花に)当たったのだ。どうも鐶は
そういう感知能力があるらしい。それを抜きにしても全くの子供と異常な戦闘力のホムンクルス
だ。防人が鐶の誘導にヘルメスドライブの直接的な移動を組み込まなかった理由も自ずと分かる。
「なんか、私だけ役に立ってなくてゴメン」
 しゅんと頭を下げる千歳に根来は元来険しい目つきをいよいよ鋭くした。
「消沈などは任務に於いて最も無意味な感情の一つ。戦う意思を失くしたというのならば我ら
に今すぐ核鉄を渡し、離脱すれば済む事」
「だ、だよね。ゴメン……」
「然るに貴殿は未だに戦闘放棄を選んでいない」
「迷惑ってコト?」
 震える声を漏らして千歳は根来を見た。しかし彼は答えない。たぶん、くの字に曲がった手
裏剣を鐶へ投げるのに忙しいせいだ。解答までの一分近くの時間を、千歳はそう解釈した。
「貴殿には年齢を吸収される以前の記憶はあるか。私にはある」
「あるよ。えーとね、お化け工場の地下で沙織ちゃん見つけたりとか、寮母さんやったりとか……」
「ならばそれを追体験すれば済む話」
「?」
「貴殿が如何なる理由で性質を変えるに到ったか。私にとってはどうでもいい事。だが既に貴
殿は一度変質を遂げているのだ。ならば年齢が戻らずとも、記憶を辿れば元の性質を取り戻
すのは存外容易いだろう」
 根来は亜空間に手を突っ込むと、布に包まれた何かを取り出した。布には根来の髪でも組
み込まれているのだろう。それを彼ははらりと除けた。
「貴殿はそれまでこれを持ち、機会に備えておけ。貴殿の能力にはまだ利用価値がある」

14 :永遠の扉:2008/08/18(月) 00:55:16 ID:44cREFwGP
 無造作に放り投げられた物をキャッチすると、千歳は目を丸くした。
「ふぇ? 夏みかん? なんで? どこで取ってきたの?」
 オレンジ色につやつやとした塊を渡す意図がどうにも分からない。
 眺めてみる。普通だ。作り物ではなさそうだ。
 嗅いでみる。普通だ。新鮮な甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
 触ってみる。普通だ。分厚い皮の向こうで角ばった感触がした。
(ん?)
 千歳は何か違和感を感じた。上手くはいえないが、普通で片付けてはならない要素がある。
 考えた。そして、気付いた。
(……! ちょっと待って。コレって。まさか……)
 根来が頷いたような気がした。
(え、でもなんで? どう考えても『アレ』の感触だけど、今、私に渡す必要なんて)

──年齢が戻らずとも、記憶を辿れば元の性質を取り戻すのは存外容易い

 すっかり幼くなった千歳の喉首を、息の塊がゆっくりと降下した。
(もしかして、この前の任務みたいなコトを……また?)
 かぐわしい夏みかん。それを眼前に千歳の表情は動揺と混乱に彩られたが、やがて決然と
頷き、夏みかんをバッグにしまった。
 余談だが彼女はあまりに年齢が退行しすぎたため服のサイズが合わなくなり、仕方ないので
最寄りの店で服と大きめのバッグ(再殺部隊の制服を入れるため)を買ったのだ。だいたい、
入店から購入まで一分ぐらいで。
「くしっ」
 やや熱を帯びたくしゃみの音は、戦いの喧騒にかき消された。

15 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2008/08/18(月) 00:57:29 ID:44cREFwGP
「根来が仲間に言葉をかける」
ただそれだけなのに難しい。彼の仲間への距離感というのは難しい。

ハイデッカさん、>>1さん
お疲れ様です。そしていつもありがとうございます。

前スレ>>406さん
色々と調べた甲斐あり、若干ながら鳥の世界というのを知るコトができた感じです。
とりあえず千歳はココからちょっとだけ盛り返すかもです。

前スレ>>407さん
剛太はたぶん斗貴子さんさえ居ればあの調子でしょうね。問題は桜花。昔は純粋だったんですが…… 
とにもかくにも幼稚園の保父さん状態のブラボーは捨てがたいと思うのです。

前スレ>>408さん
ありがとうございます。思えば結構長くお邪魔させて頂いてますね。多謝。

ハシさん
いやはや、ボス前の関門ってコトで「強敵」をイメージした結果、いろいろ反則じみたキャラに
なりつつありますねw なんだかよく考えると最後の総角、インパクトにおいて鐶に負けてしま
いそうな感じさえあります。それは後の課題として、おっとりのんびりした部分は描いてて面白いです。

>ロンギヌスの槍
>誰とでも打ち解ける人となりの優は、まだ出会って間もない憲兵隊とも友好を深めていた。
前回、やられ役にすぎなかった兵たちが、この一文で一気に人間的な色彩を帯びました。
だからこそ彼らの死を悼む優の怒りとか苦悩に感情移入できるので、ただお見事。
仇討ちも少年漫画らしく、爽快な感じになりそうで期待大!

ふら〜りさん
二つ名については意識しておりますw >アンデルセン神父 あとはビグザムやらデンドロビ
ウムやらの設計思想(拠点防衛〜とか)にターミネーターの何喰らっても突き進むような感じ
を混ぜたらすっかりこんなコトに。予定より遙かにオーバースペック。でも実は、まだ……

16 :作者の都合により名無しです:2008/08/18(月) 08:42:47 ID:9W3MX9oP0
やはりスターダスト氏が一番手か。いつも乙です。
年齢操作って能力的に強いな。

17 :作者の都合により名無しです:2008/08/18(月) 11:39:28 ID:8I99W1wL0
まひろは良い子だけどいろいろとズレてて周りの人は大変そうだ。
まひろが演劇部って公式設定ですか?
ヴィクトリアや桜花も演劇部に入ったら芸能界並のレベルの部活だな、
ルックスに関してはw

18 :作者の都合により名無しです:2008/08/18(月) 19:09:20 ID:ME7F002R0
まひろの肉なら食べたい人間は沢山いるだろうな、性的な意味で
千歳と根来のやり取りが好きだ

19 :20分で書く! C:2008/08/18(月) 23:23:02 ID:+cgouFNP0
 本来の江田島は実力者なので、調子に乗せるとけっこう怖い。アカギとドラえも
んは言わずもがな。四人の中では、のび太が一番分が悪い。
「ドラミちゃーん! ボクにトップをとらせてよー!」
 のび太はドラミに助けを求めた。四人の他にも、ノースウエストにはのび太の仲
間が何人か来ていた。ドラミは奥のベッドでのび太に背を向けて寝ていた。
「オーケー! あたし、のび太さんのためなら括約筋全開で頑張っちゃう!」
 ドラミの返事は百点満点だった。しかしベッドから出てくる気配はない。のび太
の方を見もしない。
「だったらこっちに来て一緒に打ってよー!」
「アドバイスしてあげるから、どんな手牌でどんなツモか全部教えてー!」
「そんな事したらボクの手がバレちゃうだろ! そこまでバカじゃないやい!」
 のび太は引っかからなかった。ドラミは小さく舌打ちをした。
「さっすがのび太さん! それじゃあ、全部じゃなくていらない牌だけ教えて!」

三四(22578)1389南北

「えーとねー、北と南がいらないんだけど、どうしたらいーい?」
「えいって叫んでどっちも切っちゃえ!」
「はーい! えいっ!」
 のび太の第一打、北と南。のび太の手牌は12牌になった。
「ドラミちゃーん! なんか手牌が短くなっちゃったんだけど、ボク大丈夫ー?」
「どっかから適当になんか持ってくれば全然大丈夫なのだー!」
「ホントだ普通の長さになった! なのだなのだー!」
「なのだー!」
 ドラミとのび太は無邪気にはしゃいでいる。ただしドラミはずっと壁の方を向い
ているので、どんな表情をしているのかは分からない。

20 :20分で書く! C:2008/08/18(月) 23:24:36 ID:+cgouFNP0
ちょっと短くしました。17分ちょい。
目標。120分以内で麻雀終了。

21 :20分で書く! C:2008/08/18(月) 23:28:00 ID:+cgouFNP0
× 三四(22578)1389南北
○ 三四(223578)1389南北


22 :作者の都合により名無しです:2008/08/19(火) 09:10:47 ID:TvoB7mjl0
第一打は1切が正解です。
2が入っても嬉しくないし
123の三色は遠いので
北と南は受けに取っておく。

ドラミに括約筋あるのかw

23 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:24:06 ID:DCPcHbfR0
前スレ171から
「………仕方ありません、当初の予定通り帰投します。航空隊に通達を…」「お嬢!!」
同時に激しい金属音。
ナイザーの言葉より速く、鍔元を握った鞘込めの剣があわや断頭の位置でトレインの銃剣を受け止めていた。
「……」
受ける力を拮抗させながら、トレインに言葉は無い。ただ俯く背中に溢れる怒気を炎の様に立ち上らせて、銃剣を渾身の力で
押し込んでいる。
「…お止しなさい、ハートネット。これ以上戦うのは無意味です」
「無意味……だと? このぶっ壊れまくった街が、殺されたカタギ共が、誰かの都合に巻き込まれた奴等が……無意味だと?
 ―――てめえ頭どうなってやがる!!!」
至近から激昂を叩きつけるが、セフィリアには鉄壁の様な黙秘があくまで湛えられる。
彼の怒りは、この虐殺の犠牲者達の代弁と言っても良かった。
「正気じゃねえ…てめえ間違い無く正気じゃねえ!! 地獄に落ちろ、人食い女が!!!」
最早その命以外の何で許せるだろう。スヴェンも銃を抜き、リンスも懐中時計を手に取り、イヴもまた負傷を押して髪を伸ばす。
これ以上の事が起こったら即座にそれぞれが対応を見せる構えだ。
「確かにそうかもしれませんね。自らの手を汚すだけ、かつての貴方の方が上等かもしれません」
「…ッ!! …昔の話だ、今は違う!」
「いいえ、違いません。星の使徒の手勢を倒した時の貴方は、私を一目で竦ませていた時となんら変わりません」
怒り狂った頭で冷徹を貫く口に敵う手立ては無い。悔しいがあの時、確かに心は瞑想さながらに凪いでいた。
それは、敵を殺す安心感から来るものだった。

「ざけんじゃないわよ、このクソ女!!!」
しかし別方向から、援軍の様にリンスの悪罵。跳びかからないだけまだ冷静なのだろうが、紅蓮がその眼に燃えている。
「何をどう言ったってアンタがカスだって事に何の違いが有るってのよ!!!
 クソ女………ああ、このクソ女!! そんなにあのイカレ野郎を殺したいなら、核弾頭に自分縛り付けて叩っ込みなさいよ!
 閻魔もサタンも、アンタの罪状読み切るだけでうんざりすんじゃないの!?」
「……それが? 言って置きますがこの事は、長老会も了承済みです。ご安心を、この後の復興支援にはクロノスが最優先で
 取り組む事になっているので何の心配も…」

24 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:26:21 ID:DCPcHbfR0
「それでも……人間なの?」

聞き慣れぬ声に皆の視線が集中すれば、其処にはシンディを抱いたマリアが立っていた。
「貴女は知っているの? この街がどれだけの文化的価値が有るか。歴史的価値もどれだけのものか。
 貴女は世界の平和なんて容易にたゆたう物の為に、それを破壊させたのよ。国連が何故やっとの思いで三つの国の国境に有るこの街を
 非戦闘地域にしたか判っているの? そしてその三国も、なぜ認定証に調印したのか…知っているの?」
その貌は蒼褪め、強張っていた。
「此処は………この街は、平和の象徴なのよ。それを貴女は、世界平和とやらの為に戦場にした!」
圧倒的な矛盾だった。今成すべき平和の為に恒久たる平和の象徴を汚したのだ。もしこの真相が明るみに出れば、世界を巻き込む
大問題となるだろう。
「何て人…! 何が世界の平和よ、世界認定の非戦闘地域で戦争を仕掛けさせるなんて!
 貴女の倫理は………異常よ!!」
其処に住まうからこそ放たれる、最上級の痛みの矢。アウトラウンドからナイザーまで、まともに顔を上げる事も出来ない
衝撃の中の衝撃。誰も望んでいなかった。言われるまでも無く知っていたからだ。だがそれを改めて突きつけられるのは
耐え難い威力だった。
それでも―――、セフィリアの弁舌は凍っていた。
「……仕方有りません、それが我々の使命です。
 そう…平和などたゆたう物………然るに此処とて、いつ大国の倫理によって戦場になるか判りませんから。
 それが早まっただけの事です」
「…セフィリア! てめえ、このアマ……!!!」

『動くな! 黒猫(ブラックキャット)!!!』

25 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:27:07 ID:DCPcHbfR0
今度は声調無視のボリューム優先音声が、爆音と共に彼らの耳朶を打った。
『非炸裂式対人ミサイルがボディフレーム照準を合わせているぞ!!! 動けば全弾撃つと思え!!』
上空から現れたのは、四機もの汎用カーゴヘリ。どれも武装を搭載しており、照準用カメラアイが全てトレインを凝視している。
向けている兵装は通称『ヘッジホッグ』と呼ばれる対人制圧兵装。無数の小さな矢が、例え人質を取った状態でも迂回してその肉体に
直に突き刺さる。殲滅から各個撃破までこなせるまさに「針鼠」の名に相応しい兵器だ。
それがボディフレームを記憶して射出されれば、例えセフィリアと密着しようが死ぬのは彼一人だ。
如何に彼とて、ロックオンされたハイテク兵器を前にしては成す術なく、怒りと銃を収めるよりほか無い。

「………オレが切れる前に、此処から消えろ。もうてめえらのツラは見飽きた」
本当なら命を度外視してでも暴れたいのを堪えに堪え、トレインはやむなく愛銃を収めた。だがセフィリアから離れると次は
スキンヘッドの男に赫怒の狙いを定める。それにつれて兵器のレーザー照準が彼の体を這い回るのは、状況の愛嬌だ。
「…その前にナイザー、てめえに言っておく事が有る」
沸騰した言葉は、受け止めるだけで息苦しい。
「この女を生かしておく意味が有るか? お前が未だに誇りに思ってるあのおっさんの娘だっつったって、これが許せるか?
 可愛いお転婆で済ませるか? お前が昔からオレを嫌ってる奴らの一人だってのはとっくに知ってるが…だからってこの有様が
 間違ってないって言えるか!? オレの目を見て答えろ、ナイザー!!!」
通常でも睨み返せないトレインの視線に、この現実が重なっては眼を背けるのでさえ精一杯だ。
そもそも彼は、事が始まる直前まで一人反対を進言していた。
「……お止しなさい、彼は最後まで反対を…」「てめえは黙ってろ!!!」
トレイン自身も八つ当たりなのは判っているが、それでも口を止められなかった。
だがなおも燃え滾る怒りをぎりぎり押さえ込めたのは、ナイザーの蒼白な貌だ。これ以上責めれば彼は此処で折れてしまうだろう、
彼もまた義理と現実の狭間で苦しんでいるのだ。

26 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:30:19 ID:DCPcHbfR0
「そうそう、忘れる所でした」
彼らの剣呑を意に介さないのか、セフィリアの平然たる指示でアウトラウンドの一人がおっかなびっくりトレインの前に
大きなトランクを置いて去る。
「…何だ?」
「今回の報酬です。カードにしても良かったのですが、現状を考えれば現金の方が良いかと思いまして…」
―――怒りの炎が膨れ上がり、忍耐が気化する。今に於いては、悪意に満ちた挑発でしかない。
「セ……!!!」

其処に―――、一発の銃声が響いた。

但し撃たれたのはトランク、そして撃ったのは今まで沈黙を守っていたスヴェンだ。良く見ればその手に握る拳銃の銃杷には、
円盤状の弾倉が装填されている。俗にスネイル(カタツムリ)マガジン≠ニ呼ばれる、多弾装マガジンだ。
そして銃撃もそれで終わりではない。彼の持つ拳銃は全体的に小ぢんまりとして、しかもプラスチック樹脂を多用したオモチャ
さながらの外見だが、別名を殲滅銃(ジェノサイドガン)≠ニ呼称される軍から横流しされたマシンピストルだ。
その別名を証明する様に、近くにトレインが居るのも忘れてフルオート銃撃がトランクに吠えた。
「お…おい、ちょっ……!!」
横っ飛びで銃撃の余波から逃げながら、先刻の有様も忘れスヴェンをたしなめたが彼は聞いていない。
セフィリアの鉄面皮にも劣らぬ無表情でトランクケースを撃ち続けている。
当然防弾仕様でもないそれは、部品と木っ端と散った紙幣を散らして見る見る単なるガラクタと化して行く。
更に銃撃を止めないままケースに歩み寄り、強烈なフルオートの反動を抑え込みながら一向に止まらない。
誰もが蒼褪めながら、彼の誰より雄弁で苛烈な怒りの表現を注視していた。

27 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:31:13 ID:DCPcHbfR0
―――…銃弾が尽きた頃、トランクも紙幣も全てゴミと化していた。ヘリの爆音がうるさい筈だが、今はそれさえ沈黙に思える。
トレイン達の怒りは逆に冷めた。誰かの感情の嵩があまりに大きいと、回りのそれなど爆発消火の様に消えるものだ。
「……姐さん」
事に到っただけに、呼ばれなかった者達まで一斉に肩を竦めたが……当の本人は無表情を貫き通した。
「………アンタからは何一つ受け取らん。部下を連れてさっさと消えてくれ……でないと…俺は間違ってしまいそうだ」
みしり、と軋む銃杷があらゆる限界を訴えていた。
「どうせ俺とあいつの話も聞いてたんだろ? 人工衛星があるなら。
 アレをもし現実にされたくないなら、二度と俺達に係わるな」
「出来ると思うのですか? あんな絵空事」
「出来ないと思うか? 勘違いの雲上人を出し抜く事くらい」
トレインやリンスの怒りが炎なら彼は正に氷だ、怒りは実に冷たく突き刺さる。
「…良いでしょう。では我々も此処までにしておきましょう。
 総員帰投準備に入りなさい。回収班は………」
言葉少なに指示を出す。それだけで、クロノスの人員は寧ろ待ちかねた様にきびきびとヘリに乗り込んでいった。


28 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:42:51 ID:DCPcHbfR0
「………くしょう…」
残された一行が憎々しげに離陸するヘリ群を見上げる中、トレインの悔恨に満ちた声が零れる。
「ちくしょう……畜生、畜生オオォッッ!!!」
叫びも、石畳を殴る音も、意外なほどに大きかった。
「オレは……オレは………何て無力なんだッ!!」
確かに彼は、この街を襲撃したテロリスト達を次々と破竹の快進撃で倒した。
しかし、それ以降はどうだ? 怪物の計略に堕ち、今や名前を思い出すだけで怒り心頭の女に何も出来ず悠然と立ち去らせた。
かつて黒猫と呼ばれ、今なお恐れられる己自身は、報いるべきに一矢報いる事さえ出来ない哀しいほどの矮小だった。
その背は、あらゆる感情で震えていた。吐き出したかった筈のそれは、全てその内で燻ぶり、膨らみ、そして何処にも吐き出せない
例えようも無い苦味――――…敗北の味だ。セフィリアの反論に言い返し切れなかった事も、彼の古傷を痛く広げた。
「クソ……クソ…………オレは…オレは………」
声が弱々しい段では、もう誰も掛ける言葉が見付からない……筈の彼の肩に、優しい手が置かれる。
「トレインさん……私は、何故貴方が其処まで悔しがるのか判らないわ」
でも、と続けて、マリアは見上げた彼に優しく微笑みかける。
「貴方も、リンスさんも、スヴェンも、イヴちゃんまで……貴方達はこの街を大切だと思って戦ってくれたわ。
 だからどうか、その事実までは否定しないで頂戴、命の恩人さん」
彼の貌は、まるで転んだ子供の様だった。だからこそ、意地で堪えた涙が音も無くほろほろと零れ落ちる。
そして肩の手を握り、トレインは静かに泣く。その頭を、今度はシンディが優しく抱き締めた。

「アイツが泣く所なんて…初めて見たわ、アタシ」
スヴェンの横に来たリンスが、何かを噛み締める様に呟いた。
「いや……俺とコンビを組んだ頃は、夜中に悲鳴で眼を覚ます事も有ったぜ。
 あんな強い奴が…って昔は思ってたが、最近何と無く判って来た気がする」
スヴェンの言葉を聞きながら、イヴもまた泣き崩れる彼を見ていた。
とても先刻温かい言葉を掛け、そしてクロノス達やリオンまで射竦めた男とは思えなかった。
彼の其処に何が有るのか判らない。だが、彼はやっとでは有るがそれに潰される事無く二本の足で立っている。
スヴェンは好きだ。リンスは大切だ。しかし……トレインには人間として得るべき何かを感じ始めていた。
―――長く戦火に満ちた夜は、もう白み始めていた。


29 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 10:44:22 ID:DCPcHbfR0
―――…暁光は、ヘリの中にも差し込んでいた。
しかし、それを喜ぶ空気は何処にも無い。未だ夜が続いている様に、中は沈みこんでいる。
決定的ではなくとも間違い無く黒猫の恨みを買った事は、彼らのこれからにますますの暗雲を予期させる。
意外にもナイザーは一人眠っている。精神的・肉体的疲労の極致が、彼の肉体に悩ませる事さえ許さなかったからだ。
だが、その寝顔に安らぎは無い。首を絞められ続けている様な呻きを、寝入ってからずっと零している。見る夢が悪夢なのだろう。
皆が気の毒の視線を彼に向けた後は、決まって最前の席に座るセフィリアの背中に到っている。
しかし、声一つ発する事も出来ず結局機内は重苦しく静まるだけだった。

其処へ、携帯電話の振動音。慌てて全員が誰のものか無言で捜すが、セフィリアが着信ボタンを押した事で沈黙は再来した。
『もしもし! セフィ姐、オレです、大変です!!』
アウトラウンド達にも聞こえる様な、酷く慌てた声だった。
「…四角六面、その数三つ。数は何ぞ」
『……え? いや、そんな事言ってる場合じゃ…!!!』
「四角六面、その数三つ。数は何ぞ」
『いや、だから!! 大変って…!!!』
「四角六面、その数三つ。数は何ぞ」
どう有っても符丁を言わなければ取り合う気も無い口調に、電話向こうの男は嘆息と共に折れた。
『……各面貫き合わせて、三組同様。小との別れはあと二つ』
「我の数は何ぞ?」
『ただ赤一つ。親の総取り蛇の眼三つ』
「我と汝とを合わせて何ぞ?」
『足して八、引いて六、乗余はただ我を示す七』
「…結構。No7・不可視の毒蛇(インヴィジブルヴァイパー)、ジェノス=ハザード。発言を許可します」
『……光栄ですよセフィ姐』
電話口からは、すっかり勢いを抜かれた男の声が疲れた様に返した。

だが―――、その内容は彼女をも驚愕させるものだった。

30 :AnotherAttraction BC:2008/08/19(火) 11:15:46 ID:rTEYugdb0
ソロモンよ、私は(以下略、で挨拶)。
どうも皆さん、NBですこんにちは。
いつもながらスレ立ての皆さん、読んで下さる皆さんにはただ感謝の一言です。

………ところで、セフィリアちょっと俺の手を離れて必要以上に悪くなってます。
どうすんのこれ? ヤッベヤッベ、マジヤッベ! 和解とか絶対無ええよ!
前田光世式に、出会った時が決着の時になっちゃいそうだよ!!
もうアレ、「バジリスク」みたいに最後は誰も居なくなっちゃいそうな殺伐だよ!
………いや、それも有りかな……?
いかんいかん、病んで来てる。

ともあれ、どうか付いて来て下されば俺としてはこれ幸い。
悲しい話はあんまり好きでは無いので、ベクトルがまともな方向へ向くよう
調整しますが…………中には居るんだろうな…「それが良い」って方々も。
俺も時々そっちが快感だったりするし………

ともあれ、天気暗雲にして波高し、されど風は帆に強し。
となれば宝島だろうが鬼が島だろうが行くしかないのが、進み行く者の行動倫理な訳で。
何は無くとも沈没だけは避けるつもりなので、どうかしばしお付き合いあれ。
と、言う事で今回は此処まで、ではまた。

31 :作者の都合により名無しです:2008/08/19(火) 14:35:03 ID:TvoB7mjl0
大儀の前では全てを些事と断ずる
黒セフィリアカッコいい

32 :作者の都合により名無しです:2008/08/19(火) 19:29:54 ID:C584q35Z0
>VSさん
麻雀教室、ではあと5、6回で完結ですか。
どんな完結の仕方になるのか思いもよりませんが
最後の最後は1時間位かけて書いて下さい。じっくりとw

>NBさん
セフィリア怖いですな。最も有効な戦略を取っているんでしょけど。
なまじ、見た目が麗しいから余計怖い。
冷徹な無表情の下に哀しみもありそうですが。


33 :しけい荘戦記:2008/08/19(火) 23:06:29 ID:YozZaqgZ0
第九話「お茶の間デビュー」

 ドイルたちの出番は番組内の『町のソムリエ』という1コーナーだ。役割自体は至って
単純で、番組側が用意した最高級のロマネコンティを試飲して一言感想を述べるだけ。知
識も経験も要求されず、はっきりいって玄人である必要はない。おそらくプロデューサー
は元々五人にソムリエとしての力量はさほど期待しておらず、人間離れした肉体を誇る男
五人がワインについて熱く語るという珍奇な絵が欲しかっただけなのだろう。
 無難にこなせば大過なく終わらすことができる仕事ではある。が、彼らの辞書に『無難』
の二文字はない。
 大成功か、大惨事か、二つに一つ。
 そうこうするうちに本番が始まった。
「皆様お待ちかね、『町のソムリエ』のコーナーです。今日は生放送ということで、新宿
区に在住のしけい荘の方々にお越し頂きました。それではどうぞっ!」
 拍手と喝采が飛び交う中、五人並んでスタジオに入るドイルたち。軍隊のような一糸乱
れぬ行進ながら、右手と右足、左手と左足が同時に出ている。
「今日はお招きできませんでしたが、しけい荘の大家さんはなんと、資格を取得している
れっきとしたソムリエなのです。そしてこの方々は普段から大家さんよりワインの講義を
受けており、本日はロマネコンティの批評を行って頂きます!」
 五つのグラスに一口ずつロマネコンティが注がれる。おそらくこの一口でも単純計算す
れば数千円の価値がある。
 ドイル、シコルスキー、ドリアン、スペック、柳。五者五様に表情が歪む。目蓋が痙攣
し、口元がひきつり、歯は小刻みに震える。
 だがもう逃げるわけにはいかない。
 司会者に呼ばれ、まず柳がグラスを手に取った。

 ためらいなく世界最高峰の葡萄酒を口の中に放り込む柳。あとは『ソムリエらしく』批
評をするだけ、なのだが。
 味が──緊張が舌を殺した──分からない。
 噴き出す汗。いくら舌とワインを戯れさせても、舌は「無味」といいはる。圧倒的な絶
望が柳を押し潰しにかかる。

34 :しけい荘戦記:2008/08/19(火) 23:12:18 ID:YozZaqgZ0
「さぁ、どうでしょうか、柳さん?」
「いや、えぇ、そうですなぁ」
「やはり普通のワインとは違うものでしょうか?」
 普通のワインですらこの一週間で初めて飲んだのだから、味が感じられないのに違いな
ど分かるわけがない。絶体絶命。追い詰められた柳の思考が、サツマイモ色に変貌する。
「これは……猛毒ですな」
 場が凍った。
「少し吸い込んだだけで肺胞が腐り落ちそうになる不快な刺激臭……まるで強酸をプール
に満たしたような凶悪さ。味もまた凄い。舌に触れた瞬間、強烈な苦味に襲われ、生きる
気力を根こそぎ奪います。さらに飲み込んだはいいが、これがまた私の喉と食道と胃をど
す黒く焦がし、もはや私の命は風前の灯。この酒をお造りになった方は紛れもない殺人経
験者……それも一人や二人ではない。おそらくは百を超える人間を殺傷し、屍の山に屍の
山を築き、夥しい殺戮の果てに完成したのがこのロマネコンティです」
 鬼気迫る柳の表情に会場はおろか、仲間たちですら声一つ出せない。
 一秒、二秒、三秒。
「あ、ありがとうございました! つまりそれだけ美味しかったということですね?」
「いえ、実は全く味はしませんでした」
「ありがとうございましたっ!」

 『猛毒』の異名は伊達ではない。柳の毒舌によってあれだけ盛り上がっていたスタジオ
のムードが一瞬にして崩壊してしまった。
 これを立て直すべく、次はシコルスキーが最高級ロマネコンティに挑む。
「ふ……ふしゅ」
 独特の息づかいでワインを一息に飲み込むシコルスキー。
「ふしゅる、ふしゅ……ふしゅしゅ……ふ、ふしゅる……」
 緊張の度合いが柳の比ではない。眼球の白い部分が赤を通り越して黒になっている。
「シコルスキー、落ち着け! それはウォッカだ、ワインじゃない!」
 機転を利かせたドイルの呼びかけに、シコルスキーが正気を取り戻す。
「ふしゅる! そうか……これはウォッカだったのか」
「あぁ、だからいつも通りにしていればいいんだ!」
「………」

35 :しけい荘戦記:2008/08/19(火) 23:15:29 ID:YozZaqgZ0
 シコルスキーにとってのウォッカとは──水道水。
 シコルスキーにとってのウォッカとは──塩素、カルキ。
 シコルスキーにとってのウォッカとは──錆びた水道管がもたらす酸化鉄の風味。
 よって、
「これはウォッカじゃないッ!」
 激怒したシコルスキーがグラスを床に叩きつけた。破片が飛び散る。
 すかさず柳が空掌で口を塞ぎ、ドリアンが顎を蹴り上げ、ドイルが肘の刃で頸動脈を切
り裂いた。これにて一件落着。
「……あれ、そういえばスペックがいないな」
 スペックはどさくさに紛れてスタジオから消えていた。ロマネコンティのボトルと共に。
「ミギャアアアアアッ!」
 
 どうやらスペックはロマネコンティ以外の高級ワインもほとんど持ち去ったらしい。会
場は騒然。もはや番組は成り立つはずもなく、手品や売名どころではない。
 糸が切れたように、がくんと膝をつくドイル。
「せっかく掴んだチャンスだったのに……もう終わりだ……」
「いや、まだ手は残されている」
「なんだと?」
「催眠術だ」

36 :しけい荘戦記:2008/08/19(火) 23:17:17 ID:YozZaqgZ0
 怪しげな演武を始めるドリアン。しかし、この混乱を収めるには、出演者、観客、スタ
ッフを含む大多数を術にかけねばならない。
「……アンタの実力は認めるが、この人数に催眠術をかけるのは不可能だ!」
「いや、かけるのは三人で十分だ」
「三人?」
「君と柳、そして私だ」
 ドリアンが両手を叩いた。

 ──さらば、現実。

 この瞬間から、番組におけるドイルの記憶ははっきりしない。
 ドリアンと柳と腕を組んで、楽しく踊ったような気がする。スペックに持ち去られなか
ったワインをたくさん飲んだような気がする。青ざめた観客が悲鳴を上げていたような気
がする。警備員がスタジオに突入してきたが、全員返り討ちにしたような気がする。シコ
ルスキーが一人寂しく救急車で運ばれていったような気がする。
 催眠術に酔いが加わり、精神は更なる制御不能に陥る。
 途中、怒りに満ちたオリバがどこからともなくスタジオに乱入してきたような気がする。
 巨大な鉄拳が飛んできたような気がする。
 以降は不明。

37 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2008/08/19(火) 23:19:59 ID:YozZaqgZ0
とうとう58を数える新スレ、おめでとうございます。

ソムリエ編終了。
成功させてやろうとも思いましたが、死刑囚はやはり不幸が似合う。
次回十話は新キャラを登場させる予定です。

38 :作者の都合により名無しです:2008/08/19(火) 23:47:45 ID:EOV5Y7iM0
なんかVSさん、NBさん、サナダムシさんとバキスレを昔から
支えてくれた人たちが立て続けに来てくれて嬉しい。

>VSさん
麻雀教室最終章ですか。もっとじっくり書いて欲しい気もしますが
VSさんのスタイルだから仕方ないw塾長の爆発を期待してます。

>NBさん
セフィリアはクールなところも魅力的ですね。トレインが熱血してます。
原作には無い冷酷な部分も掘り下げてくれて嬉しいですね。

>サナダムシさん
死刑囚たちに高尚な趣味は無いでしょうな。ドリアンだけは戦力に
なりそうだったのですがwシコルのふしゅるはある意味期待通りw

39 :作者の都合により名無しです:2008/08/20(水) 00:24:02 ID:37dXt6a+0
ドイルも気苦労が耐えないなw
新キャラはピクルだろうか。カツミンがいいな

40 :作者の都合により名無しです:2008/08/20(水) 13:35:49 ID:zDVr9DiI0
ヤイサホーだと思う。ピクルは使い辛そう。
シコル虐めそうだし。ま、それはいつもの事か

41 :ふら〜り:2008/08/20(水) 18:24:34 ID:JgO6kLfr0
>>1さん&ハイデッカさん
おつ華麗さまです! また盛り返してきましたバキスレ、これからも楽しませて頂きますぞ。

>>スターダストさん
いつもながら根来の「言葉」がいい。叱責でも叱咤でもなく激励や忠告というほど親切なもの
でもなく。相手が把握できてない現状(胸中まで含めて)を的確に説明し、次の一歩を提案。
だが指示はしない。だが相手を深く信頼というわけでもなく……千歳だけ少し特別、だと嬉しい。

>>VSさん
今回のドラミみたいな、ボケてるのび太に対して突っ込みを入れず、どころかノセてボケを成長
させていく、誤用確信犯的な役の存在ってのがVSさん流漫才の妙味ですよね。んで崖っぷち
まで来たのび太が助けを求めても無視、見下し笑いすらしない。笑ってるのはいつも読者だけ。

>>NBさん
重苦しい危機が去って、良かっためでたし……となるはずなのに、むしろより一層重くなって
しまって。とりあえずマリアもああ言ってますし、次回ぐらいは一同、少し休めると良いですが。
にしても、やっとトレインのターンかと思いきや、やはりスヴェンもキメてて。流石、実質主役。

>>サナダムシさん
作者から公式に「不幸が似合う」と言われてしまった彼ら。しかしどんなに巨大な失敗をしよう
とも、オリバにボコボコにされようとも、それでもなんだか不幸には見えないのも彼ら。どうせ
数日もすればケロっとして、また同じ失敗やボコボコを繰り返すのであろう彼らが好きです。

42 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:35:58 ID:RBeIc8NF0

「じ、じこ?」
安藤が呆けた声を出した。
「事故だと?―――じゃあ火事は俺達関係ねえじゃねえか!主人は?女将は?中村は!」
安藤は弥子に向って声を荒げ足もとに転がっている三人を指さした。
三人とも赤い喉肉をさらしながら微動だにせず横たわっている。
どうしても見続けることができずヤコは目をそらしてしまう。
「ヤコに言うのは止めてください」
叶絵がヤコの服を掴みながら安藤を睨む。
「だっておかしいじゃねえか、火事の原因は子供たちの火遊びなんだろ?」
安藤は煙草を取り出しくわえるとポケットを探る。ライターを探しているらしい。
少しでも落ち着こうとしているのだろうが、僅かに震える手が安藤の動揺を表している。
「つまりは俺達はモノノケの逆恨みに巻き込まれ―――ひッ?」
安藤は取り出したそれで煙草に火を点けようとして直ぐに放り投げた。

43 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:37:00 ID:RBeIc8NF0
それは黒焦げになったライターだった。
まるで、―――火事の現場に有ったかのような。
「これはまさか……?」
「ほう」
ヤコと叶絵に探るような眼を向けられ、安藤はたじろいだ。
おどおどと助けを求め薬売りに目をやるが、薬売りは静かに安藤を見据えている。
「待てって姉ちゃん達……これじゃ俺が火ィ点けたみたいじゃねえかよ」
「違うんですか」
「違うよ!俺はそんなことはしてないって、俺はただ」
「『俺はただ』?」
「俺はただ―――、あの餓鬼にこれをやっただけだよ!」

叫んで安藤は頭を抱えた。それを見た薬売りが目を細める。
叶絵は呆けたような顔をする。ヤコは必死に脳内の整頓を試みた。
「あの幼い子供たちにライターをあげたんですか?」
叶絵の咎めるような声に安藤は呻くような声を出す。
「俺だっていつもならあげないよ……あの餓鬼に言われたんだ」
安藤はため息をついて座り込んだ。胡坐をかいて叶絵の、ヤコの、そして薬売りの顔を順に見上げる。
「あの日俺は公園でパン食ってたんだ」


44 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:38:46 ID:RBeIc8NF0

「取材の帰りでさ。三つ入ってるパン、あるだろコンビニで。
 ベンチで食いながらたばこ吸ってたらさ、細っこいガキがこっち見てるんだよ。
 何気なく一つやったら半分残しやがってさ。弟たちにやるんだ、てさ。
 あんなガキがそんなこというもんだから居たたまれなくてな。
 別に高いもんでもないし、残りの一個もやるからその半分食えって言ったんだ」
焦げたライターを見ながら安藤はつづける。
「そしたら今度は母ちゃんもやりたいからやっぱり食えねえってぇじゃねえか。
 いまどき一杯のかけそばでもあるまいし、もう俺は堪らなくてな。
 そんなんいくらでも買ってやるからとにかく食えって言ったんだ。
 ……けどな、いらないからライターくれってさ。
 ストーブが壊れて外から火をつけないと作動しない、家のマッチは全て無くなった、
 母親が風邪で動けないから部屋を暖めないといけないのにこんな子供じゃマッチもライターも売ってくれないんだと」
一気に語りつくすと安藤は笑った。
「俺はやったよ。大人のいないとこでは使うなって言ってさ。
 それが悪いってのか?ライターやるんじゃなくてストーブ買ってやりゃ良かったって?
 それはあの餓鬼たちを踏みにじる行為になるんじゃないのかよ?どっちがいいのか分からなかったよ俺にはさ」


45 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:39:36 ID:RBeIc8NF0

叶絵は目を伏せていた。ヤコも何を言えばいいのか分からない。
薬売りは―――、退魔の剣に目を落としていた。
「たしかにライター渡したのは俺だよ。けど火事を起こしたのはあいつ等だろう!
 それで俺が恨まれてんのか?俺のせいで死んだって?これが『理』とやらか薬売りさんよ?
 ……早くモノノケとやらを斬ってくれよ!」
一気にまくしたてることで何かのタガが外れたらしい安藤は、いまや薬売りに掴みかからんばかりだ。
「……出来ませんな」
「なんだとう!?」
目を剥く安藤の目の前に薬売りは退魔の剣を突き出す。
退魔の剣の狛犬は先ほどと違いかたりとも動いていなかった。
つまり。
「まだ退魔の剣は『理』を得ていないってことですか」
ヤコが呟くように言うと薬売りは少しだけ笑った。


理。コトワリとは心の有り様なのだという。
ならばカマイタチの理は一体どこにあるのだろう。
ヤコは再び考えを巡らせる。退魔の剣に理を示すには安藤の話ではまだ足りないらしい。
それとも、もう条件は揃っているのだろうか。

いつもヤコを事件に巻き込む魔人に心を読み解くのはヤコの領域だと言われたことがある。
たしかに魔人の言葉通り色々な事件と出会い色々な人と出会って、ヤコは様々な心に触れてきた。
それは彼らの『理』だったのだとは言えないだろうか。
だからヤコには分かるはずだ。カマイタチの―――、子供たちの心の有り様が。


46 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:40:21 ID:RBeIc8NF0

「そもそも、なぜ安藤さんはあの記事を書いたのでしょう?」
ヤコは首をかしげて安藤を見た。先ほどからずっと気になっていたことだ。
なぜ本当は事故であった火事を安藤は心中と断定したのか。
「確か安藤さんの記事が最初にすっぱ抜いたんですよね?
 それで生活保護などの行政問題までうまく展開してありました。
 結構話題になったので私も知っています。―――けど、」
「ななんだよ何が言いたい姉ちゃん」
安藤はよろりと立ち上がり後ずさる。
「さっきの話だと安藤さんが子供にライターを渡したんですよね?
 他の記者ならともかく、何故安藤さんは子供の火遊びや事故を疑わなかったんですか?」
じっと見つめるヤコの目に気おされてか、あるいは冷たい叶絵の目や静かすぎる薬売りの目にひるんだか、
安藤は後ずさりながらふすまに手をかける。
「なんでってそりゃあ」
へらりと。
ヤコの目を見て安藤は笑った。
「可哀想だろ、そっちの方がさ」
かた、と退魔の剣が小さく動いた。

47 :作者の都合により名無しです:2008/08/20(水) 19:44:53 ID:U5sqJyfuO
連投規制よけ

48 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:45:00 ID:RBeIc8NF0

「―――え?」
「貧乏な親子が死んだってことにゃ変わりがないんだ。
 だったら理由は可哀想な方がいいだろ?どうせ真相なんて誰にも分からねえんだ。
 母親が子供たちに覆いかぶさってたってのは間違いないし、なら心中かもしれないじゃないか。
 本当は誰のせいで火事が起きたのかとかはどうでもいいんだよ。皆わからないんだから」
「あ、あなたは何を言って」
「だからちょっとくらい俺の役に立ってもらってもいいじゃないか。
 現にあの記事を俺が書いたおかげで行政批判が高まって母子家庭への保護が厚くなりそうじゃないか。
 評価されて俺も喜ぶ、カワイソウな記事が読めて読者も喜ぶ、
 これで貧乏家庭への生活保護がましになりゃああの母子も喜ぶだろうよ。
 ―――皆万々歳じゃないかなにが悪い!」
叫ぶと同時にふすまを開けた安藤はそのまま崩れ落ちた。




49 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 19:46:33 ID:RBeIc8NF0

再び手をひと振りしてふすまを閉じた薬売りは、今度は印を解かずにふすまを睨みつけている。
カマイタチの力は先ほどより増しているのかもしれない。
たいしてこちらの退魔の剣はいまだに解放されていない。
ふすまに向かってじっと印を結んでいる薬売りをヤコは見る。
心持ち顔が青い気がするのは力が入っているのかそれとも押されているのか。
いずれにしても残りはヤコ達三人だった。このままでは三人とも斬られて死ぬだけだ。
怖くないといえば嘘になるが薬売りがこうして闘っている以上、
ヤコもできることをしなくてはならない。

ヤコは事件を反芻する。安藤の新聞記事くらいでしか知らないけれど、そこに何かがあるはずだ。
わずかに退魔の剣が動いているところをみると、先ほどの安藤の発言はモノノケの理の一端に触れている。
風邪で寝込んでいたという母親。
母親のためにライターを手に入れた子供たち。
きっと火遊びではないのだろう。火付きの悪いストーブに火をつけようとしてしくじったのか。
母親は動けないはずだから、子供たち―――きっと長男だ。
火事になり逃げようとしたものの煙に巻かれて母子は命を落とした。
母親は今際の際にせめて子供たちを救おうと覆いかぶさっていたという。
そして、子供たちは火をつけてしまった後悔からモノノケになった―――なんだかしっくりいかない。


50 :ぽん:2008/08/20(水) 19:57:00 ID:U5sqJyfuO
こんばんはぽんです。
超久しぶりなので今回完結させるべくようやく書き上げ、
一気に投下してたら雷凄いわアク禁食らうわでもう自分涙目です。
もう少ししたらもう一回チャレンジしますね・・・
中途半端ですみませんです

51 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 20:40:45 ID:RBeIc8NF0
母親は動かない体を無理に動かして子供たちを庇ったという。火事場の何とかというやつだろう。
しかし己を含め子供たちは命を落とした。母親の思いも相当残っていてもおかしくなさそうだ。
なのにモノノケになったのは母親ではなく子供たち。いったい何故なのだろう。
体を引きずってまで子供たちを庇ったという母親の思いはどこに行った?子供たちの思いはなぜこんなにも強い?

これでは反対だ。
そうだ。
「―――反対なんだ」
ヤコの呟きに退魔の剣は震えを増す。……間違っていないようだ。
「お母さんが子供たちを庇ったんじゃない、子供たちがお母さんを背負おうとしていたんだ」
あと少しで退魔の剣に『理』を示せると思ったその時、ふすまが開いた。
風が部屋に渦巻き、薬売りは印を変えヤコと叶絵の前に立つ。
ヤコと叶絵は互いを庇ったがしかし、それはすべてを切り裂く刃ではなく様々な記憶に満ちた風だった。



52 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 20:42:05 ID:RBeIc8NF0


彼は母がとても好きだった。
たとえ貧しくても母は必死に働いて彼と弟妹を養ってくれた。
明るく優しく賢い母が、彼は本当に好きだった。
だからあの日、母が高熱で寝込んだあの日、彼はとても己をふがいなく思った。
寝ていれば治るわよ、と咳きこみながら笑う母はがたがたと震えていて、
自分たちは服を着込めば暖房がなくても我慢できたけど、
母だけは、真っ蒼な顔をして震えている母にだけは暖かい部屋が必要だった。
暖かい部屋さえあれば母も治癒してまた皆幸せに暮らせるはずだった。

しかし。
彼はあまりに幼すぎた。
彼がライターを扱うのが生まれてはじめてだったとか。
弟が母を暖めるために引っ張り出してきた子供用の布団や毛布がストーブの傍に置いてあったとか。
妹が自分も何か役に立ちたくておぼつかない足で彼に近寄り、転んだ拍子に彼のライターを叩き落としたとか。
そんなことは些細な問題で、彼がもう少し大きければ容易に解決できるはずだった。

火が床を舐めた時も彼はうろたえてしまった。
泣き出す弟と妹を、そして煙に咳きこむ母を見て彼のとった行動は「逃げる」だった。
隣近所に助けを求めてもすぐに助けてくれるか分からなかったし、自分で消火できると思えなかった。
だから、弟妹を先に逃がして彼は母を背負って逃げることにした。
―――もう少し彼が大きければそれで正解だったにちがいない。
けれど。
彼は幼かったのだ。

例え小柄な母といえど、大人の肉体は彼には重すぎた。
意識のない人間がより重く感じるというのもあるかもしれない。
先に逃がしたはずの弟妹が泣きながら母の手足を担ぎ出した時も、彼は再び先に行けとは言えなかった。
母を助けたいのは彼だけではないと思ったからだ。
こうして、彼は過ちをもう一つ犯した。


53 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 20:43:28 ID:RBeIc8NF0

彼の記憶が、思いがヤコの脳内に流れ込んでくる。
叶絵を見ると涙を流していた。叶絵も彼の記憶を見ているらしい。
部屋に渦巻く轟々たる風が彼の記憶を見せているのだろう。
「ヤコ、この子たちどうにかならないのかなあ」
泣きながら叶絵が言った。
「薬売りさん、この子たちを本当に斬らないといけないんですか?
 こんな目に逢って、こんな思いして、その上斬られないといけないんですか?」
「モノノケは、斬らねばならぬ」
縋るような叶絵に、静かに薬売りが言う。
「そんな……ヤコ!ねえ!」
叶絵は優しいのだ、とヤコは思った。
色々な事件と遭遇してきたヤコは叶絵の言葉に頷くことはできなかった。
どんなに辛くても苦しくても悲しくても酷くても、
その道を選ぶしかない場合があることをヤコは知っている。
あの歌姫や電人、その他多くの人たちのように。

「いい、あたしが助ける」
ヤコが答えないのを見て叶絵は立ち上がった。
「叶絵!薬売りさんから離れちゃだめだよ!」
「大丈夫。きっとわかってくれる」
「叶絵さん。モノノケは分かってくれませんよ」
印を結んだまま振り返らずに薬売りが言う。
きっと薬売りが結界を張っているおかげでヤコも叶絵も無事なのだ。その結界から出れば結果は明白だ。
「叶絵、座ろうよ」
「……ヤコ、イケメンに名前覚えてもらったわ、やったあ」
叶絵はふわりと笑うと周囲を渦巻いている風に目を向け一歩踏み出した。
「ねえ!あなたたちもうこんな―――」
ヤコが叶絵の腕を引き戻すより早く。
白い喉を一文字に斬り裂かれ、叶絵の体は崩れ落ちた。



54 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 20:44:48 ID:RBeIc8NF0

目からこぼれおちる涙が、何故出ているのかヤコにはよくわからなかった。
カマイタチの記憶を見たからか。
叶絵が斬られるのを助けられなかったからか。
モノノケへの恐怖からか。
叶絵の体を抱きしめて、ヤコは変わらず前を睨みながら印を結んでいる薬売りを見る。
「薬売りさん。カマイタチはただ後悔からモノノケになったんじゃないと思います。
 きっと……、自分たちが悪いのに心中しただなんてお母さんが悪く言われるのが悲しかったんだ」
かちん。
退魔の剣の狛犬もどきが三回目の歯を鳴らした。その瞬間、剣はひかりを帯びて震えだす。
「斬ってください、モノノケを」
「―――承知」
振り返らずに少し笑った後、薬売りは退魔の剣を突き出した。
「モノノケの『形』と『真』と『理』をもって―――解き、放つ!」

退魔の剣は抜いた瞬間にはるかに大きな光の剣になる。
そしてヤコの前に有った薬売りの背が沈み、服をのこして姿が消えた。
「く、薬売りさん?」
事態を把握できないヤコが振り返るとそこには見知らぬ青年立っていた。
褐色の肌。金の隈取り金の和装。
たなびく灰の髪と顔立ちだけが薬売りの面影を伝えている。
その青年は渦巻く風に剣を突き立てそのまま部屋を一周した。
斬られた風は端から消滅し、遂にはすべて消滅する。
最後の瞬間、確かにヤコは子供たちの声を聞いた。

―――おかあさん。


55 :モノノ怪 〜ヤコとカマイタチ〜:2008/08/20(水) 20:46:32 ID:RBeIc8NF0


「結局イケメンと仲良くなれなかったわ」
目を覚ました叶絵たちは何も覚えていなかった。
誰も喉を切られていなかったし薬売りも金色のスーパー薬売りではなく元の通りなので、
カマイタチの存在を思い出させるものは何もない。
宿を離れる間際、叶絵はヤコに愚痴をこぼす。
「せめてアドレスくらいは聞きたいわよね―――あ、薬売りさん」
淡々と帰り支度を進めていた薬売りを目ざとく叶絵が呼び止める。
「私たちもう一度薬売りさんに会いたいねーなんて話してたんですけど」
何故かヤコの腕を掴んで叶絵が言う。
「モノノケが――――出るならば」
薬売りはふわりと笑うとそのまま立ち去った。
「や、ヤコ……相変わらず言ってることはよく解らないけれど笑った!
 薬売りさんが笑ったわ脈ありよねこれ!?」
叶絵が何故かヤコの首絞めて揺さぶる。
意識が飛ぶ寸前にしかしヤコは薬売りの言葉を理解した。

物の怪の『形』を為すのは、人の因果と縁。
そして物の怪は斬らねばならぬ。
ならば、人の因果と縁が満ちるところに薬売りは現れるのだ。


妙な因果と縁にやたらと恵まれていることにかけては、ヤコにはちょっと自信があった。


  ≪了≫

56 :ぽん:2008/08/20(水) 20:58:00 ID:RBeIc8NF0
前回までは>3よりです


ああーーびっくりした。

こんばんはぽんです。
お久しぶりです。時間開きすぎましたがようやく完結しました。
ぼんやりしている間にアキバ事件が起きて自分が書いたことと重なってしまいへこんだり
ぼんやりしている間にホスト規制食らったり
色々ありました。
が、アキバ事件と自分のSSを重ねるのはあまりにおこがましいのでへこむのはやめました。


アニメのモノノ怪とネウロが好きなので無理やりミックスしてみました。
己の文章力にがっかりすることは一度や二度ではないのですが
書いててとても楽しかったです。
そして超飛び飛びにもかかわらず存在を忘れず励ましてくれた皆様。
なんとか最後までこぎつけました。ありがとうございます。

実はテンプレからはずされていないかドキドキでしたがよかったです・・・」
これからもこのスレが栄えますように。

57 :作者の都合により名無しです:2008/08/20(水) 21:43:25 ID:cmm0387l0
わーい、ぽんさんだー!完結おめでとう。
ヤコが好きなんですっごく楽しみにしてたんだ。これからもう一回頭から読んでくるよー!

58 :作者の都合により名無しです:2008/08/20(水) 23:58:34 ID:37dXt6a+0
ポンサン完結おめ!!
すきなSSだったんで寂しいけどね・・

59 :作者の都合により名無しです:2008/08/21(木) 01:33:43 ID:jZ8d5qV40
ぽんさん復活乙&完結おめでとうございます。

良く読むと暗い話の部分が多いのですが、
ヤコの存在とヤコと叶絵たちのとのやり取りで
よい意味で救われてましたね。

完結ということですが、また新作で登場してくれるのを
願っております。

60 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 02:40:01 ID:cThu7dmBO
 二人で暗い道を歩いた。

 切れ切れに瞬く電灯に頼りなく照らされて、風の吹くほうへ。
 レッドもセピアも互いに言葉を交わさず、ただ前を目指して。
 歩幅の広いレッドがときおりセピアより先に行ってしまうこともあったが、そういうときは足を止めて彼女を待った。
 急かすような素振りは少しもなく、セピアが追い付くまでその場で静かに佇んでいた。
 そして、また歩きだす。
 それはまったくのんびりした歩調で、もしかしたら遠足かなにかに赴いてるようにも見える。
 遠足――。
 或いは本当に、それそのものなのかも知れない。
 ニューヨークの地下トンネルの無人の道の、施設された線路の上を歩く。
 日々の喧騒から遠く、世界から切り離された、孤独な、ゆえに自由な空間がそこにあった。
 地上のいかなる悩みも、苦しみも、苛立ちも、今の二人の間には微塵も存在していない。
 前に進むという行為それ自体と、そこに付随する景色の変化だけが、今の彼等にとって価値のある事柄だった。
 壁面にのたくるケーブルの描く不可思議模様、冷却パイプから滴る結露が刻むリズム、近くに遠くにこだまする足音、
普段ならまるで気にもとめないノイズみたいなものたちが、この地の底では瑞々しい意味を伴って目の前に顕れていた。
 それは日常という薄皮一枚隔てた裏側に潜む、世界の脈動だった。
 この道に渦巻く神秘と秘密を、レッドとセピアは共有していた。
 光も音も微かなるために、互いの息遣いや姿はいっそう確かに浮かび上がっている。
 それだけで十分だった。
 会話も目配せもないままに、二人は相手を認識し交感しあっている。
 言葉による行き違いもなく、触れ合うことによる衝突もなく、想いによる裏切りもなく。
 沈黙と暗澹の名の元に、二人の存在は静かに寄り添っていた。

61 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 02:45:11 ID:cThu7dmBO
 ――だがそれすらも、決して永遠のものではない。
 この道が、この歩みが『遠足』だというなら、これは終わりに向かう道であり、歩みであった。
 『不思議の国のアリス』をこの世に誕生せしめた、リデル家三姉妹の『テムズ川の遠足』にすらも『終わり』があったのだから。
 二人は前に進んでいる――地中深くの不思議の国(ワンダーランド)から、夢などどこにもない無慈悲な現実へ向かって。
 これは『家に帰るまでが遠足』の、その帰る道に他ならなかった。
 この先になにが待ち受けているのか、二人は知っている。
 それでも、歩みが滞ることはなかった。
 遠足の終わるときを引き延ばすような卑屈さもなく、先を急ぐような焦りもなく、粛々と足を進める。
 この二人きりの道の先――現実へと続く道――いつか必ず死に至る道へと向かって。
 風の吹くほうへ。
 ――そして、闇に慣れきった二人の視界に、鮮烈な光点が飛び込む。
 この道の突き当たりに、丸く切り取られた直射光が壁となって立ち塞がっている。
 それは外界の――地表から降り注ぐ太陽の光だった。
 トンネルの出口に辿り着いたのだ。
 そこで二人の足が、はたと止まる。
 視線の先には『そいつ』がいた。
 この遠足の終着にして、回帰すべき現実の具象、二人に死をもたらすだろう黒づくめの男の影。
 その姿は――まるで現代版ニンジャ。
「やあ、待っていたよ。だが……思っていたよりは早かったな。キース・レッドくん」

62 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 02:53:16 ID:cThu7dmBO
 
「どういうことだい、バイオレット姉さん!?
『タイ・マスク文書』をセピアとレッドだけで運ばせるなんて無謀すぎるよ!」
「落ち着きなさい、グリーン」
「落ち着いていられるわけないだろ!
そりゃ僕だって文書の内容についてまでは知らない――だけど、あれを執拗に狙っているのが、
かの悪名高い『静かなる狼(サイレント・ウルフ)』だってこと、姉さんだって知っているはずだろう!?」
「……これは、ブラック兄さん直々の指令よ。わたしたちが彼のオーダーに容喙する権限はないの」
「だからって、そんな――現に、二人は消息を絶ったままじゃないか!」
「信じなさい、と言うしかないわね。あなたの兄弟たちを、彼等に宿るARMSを」
「……ブラック兄さんはどこにいるんだい? 兄さんに掛け合って僕が支援に向かう許可を取り付けなきゃ。
レッドだけじゃセピアを守り抜けるはずがないんだ。そこのところは兄さんだって分かってくれるはずだよ。
姉さんもそう思うだろう?」
「……グリーン坊や。残念だけど、ブラック兄さんの居場所については教えられないわ。
兄さんは今、エグリゴリが実施する極めて重要な秘密作戦の指揮を取っている」
「……作戦? 作戦だって? よりにもよって今? ――まさか、セピアとレッドは『陽動』なのかい?
その『作戦』とやらの戦場から、『静かなる狼』を遠ざけるための?」
「そうかも知れない、違うかも知れない。ただ――これだけははっきりしているわ。
ブラック兄さんの『作戦』は『プログラム・ジャバウォック』の成否を左右する重要な局面であり、
他方、レッドの『任務』も『エクスペリメンテーション・グリフォン』を進捗させる上では不可避のものだということ。
そしてそのどちらも、エグリゴリの中心命題『ARMS計画(プロジェクト・アームズ)』に深く根差している――」
「…………」
「レッドは今、紛れも無い死地にいるでしょう。或いは、そこで死ぬのが彼にとっての幸せなのかも知れない。
だけど……おそらくそうはならない。
ある種の事柄は死ぬことより恐ろしい――彼がキース・レッドである以上、
『エクスペリメンテーション・グリフォン』によって選ばれた実験体(ヴィクティム)である以上、
彼を定義する運命(プログラム)は彼に死ぬことを許さない。
――今は、まだ」

63 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 03:02:49 ID:cThu7dmBO
 
 レッドと男は、一触即発の空気を孕んで対峙していた。
 先に口を開いたのはレッドのほうだった。
「……よく、あの落盤から脱出できたな」
「なに……忍術を少々、ね」
 事もなげに肩を竦める仕草に、レッドは「へっ」と頬を歪ませて応える。
「どうだろう、今からでも遅くはない――もう一度だけ考え直してみないか?
……『タイ・マスク文書』を私に引き渡してくれないかな?」
「考えることなんかなにもねーよ」
 それは即答だった。
「クソったれだ馬鹿野郎。誰が渡すか」
「…………」
 男は黙ったまま首を振り、そしていつの間にか手にしていたクナイを投げ付ける。
 反射的に頭部をガードしたレッドの左腕にクナイが突き刺さる。
 そのクナイには極細のワイヤーが結び付けられていて、その片方はトンネルのの壁面へと続いていた。
 薄暗いためにそれがどこまで伸びているかは分からないが――、
「これでもかね?」
 同じくいつの間にか男が手にしていたスイッチが押し込まれると同時に、想像を絶する高圧電流がレッドの身体に注がれた。
 バチッという乾いた音に弾かれるように、レッドの身体が弓なりにのけ反る。
 その衝撃は一瞬だったが、効果は決定的だった。
 肉を焦がすような嫌な臭いがして、皮膚からは煙と蒸気の混合気体が立ち昇る。
「ぐうっ……!」
 がくんと膝が落ちる。左腕のクナイを引き抜こうにも、右手に力が入らない。
「レ、レッド!?」
 セピアが慌てて屈み、レッドの肩をかき抱いた。
「ちょっと近くのケーブルから配電を拝借した即席の装置だが――なかなかに効くだろう?
ARMSの長所にして短所……それは機械の集合体であることだ。しばらく、君のARMSは満足な制御ができないだろう」
 ――確かに、その通りだった。
 高圧電流によってレッドのARMS『グリフォン』は機能不全に陥り、形態変化さえ不可能になっていた。

64 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 03:19:37 ID:cThu7dmBO
 ナノマシン群体であるARMSは、コアチップによって統制され、
運用目的に応じて個々のナノマシンを変質・集積・構築しなければ機能を発揮できない。
 たとえコアチップが無事でも、ナノマシン間の個体レベルでのネットワークが阻害されれば、相互干渉による形態の最適化に齟齬をきたす。
 結果、ナノマシンがばらばらに動いて暴走する危険を回避するため、
コアチップは安全装置(フェイルセイフ)機構を発動して強制的な休止モードへと移行する。
 つまり、ナノマシンがオーバーフロー状態から回復するまでは、『グリフォン』の最大の武装である振動兵器が形成できないのだ。
「己の限界を知ることだ、キース・レッドくん。今の君では――私には決して勝てない」
 その通りだろうとレッドも思う。
 敵は只者ではない。人外じみた戦闘力を持ち、ARMSの特性も知悉している。
 第一形態すら発現できない状況下では、どうあがいても勝てっこないことは明らかだった。
 だが――、
「黙れ」
 だが、レッドは立ち上がる。
 ふらつく身体を懸命に支え、両の足で地面を踏み締める。
「てめえがオレの限界を決めるなよ。何様のつもりだ。
ふざけんなクソったれが。くたばれニンジャ野郎。トノサマのケツでも舐めてろ」
 痺れの残る舌を動かしてそう吐き捨て、唾を吐く。
 そんなレッドの暴言に接しても、男は鷹揚さを失わなかった。
「しかし、実際、君にどれほどの選択肢が残されている?」
 むしろ優しげとも言える口ぶりで、聞き分けのない子供を諭すように。
「私の見るところ、残る手はキース・セピアくんの先程の『力』を利用するくらいしかないようだが――」
 軽く首を振り、
「だが、それは最も愚かな選択だ。あのような惨劇を再び引き起こすことに、なんの意味がある?
破滅と引き換えの勝利など、それはもはや勝利ではない。違うかな?」
 男の手には、またもやいつの間にか、そして今度は日本刀が握られていた。
 ずらり鞘を払い、淡く蒼く輝く刀身が露わになる。
「これが最後通牒だ……『タイ・マスク文書』を引き渡してくれ」
「――やめて」
 そう答えたのはセピアだった。

65 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 03:37:27 ID:cThu7dmBO
「あなたの欲しいものは渡せません。だってレッドにはきっと大事なものだから。
だから――」
 男がセピアの言葉を遮り、後を引き取る。
「だから、どんな犠牲を払っても構わないと?」
「違うわ。だから――」
 セピアは一歩前に進み、レッドの先に立った。
 それはこの任務が始まってから初めての――そしておそらく、
レッドとセピアが最初に出会ったときの、二人で敵基地を脱出して以来のことだった。
「だから――わたしで我慢して」
「ほう……?」
 男の目が興味深そうに細められた。
「わたし、あなたについていきます。『ブルーメン』っていう人たちのところまで。
代わりにレッドを見逃してください」
「おい、待てよセピア――」
「待たないわ。これがきっと、わたしに出来る最善のこと。
わたしじゃあなたの力になれない。足を引っ張ってばかりだったけど、それもこれでおしまい」
 セピアは振り返りもせず、冷たさすら感じさせる口調で言う。その表情は伺えない。
「勝手なことを吹いてんじゃねえ……!」
 セピアの肩に手をかけようとした瞬間、とてつもない共振波がレッドを襲った。
 セピアのARMS『モックタートル』が、電撃で弱体化している『グリフォン』を捩伏せたのだった。
 あまりの激痛に気が遠くなりかける。
「ニンジャさんの言うとおりだよ?
わたしとあなたじゃ……この人に勝てない」
 そう――まったくその通りだと、レッドも思う。
 だけど、なぜだろう……。
 歪む視界の中で、レッドはそれとは別の思いに満たされていた。
 その思いに促されるまま、言い放つ。
「『タイ・マスク文書』……それは日本人カツミ・アカギの成長記録と育成スケジュール表だ」
 セピアの後ろ姿が、ぎょっとしたように大きく震えた。

66 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 04:02:50 ID:cThu7dmBO
「これで満足か、ニンジャ野郎!」
 これまで冷静沈着を固持していたさしもの男も、わずかに驚いたようにレッドを注視していた。
「満足かと聞いている!」
「……ああ、それで十分だ。私の推測は裏付けられた」
「そうかよ、なら――オレと勝負しろ!」
「な――」
 弾かれたようにセピアが振り返り、
 ぱぁん。
 思い切りいい音を立ててレッドの頬を張り飛ばした。
「ば……馬鹿じゃないの! なんで言っちゃうのよ!?
しかもなによ、なにが『勝負しろ』よ! 頭おかしいんじゃないの!?」
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を隠すことも忘れ、セピアは怒鳴っていた。
「わた、わたしがどんな気持ちで……!」
「うるせー馬鹿!」
「ばっ……」
「どうだっていいんだよ、ブラックの陰険じみた任務なんざ!
オレの……オレの望みは……!」
 セピアと睨み合っていた視線を外し、その背後へ――、
「あのニンジャ野郎をぶちのめす、それだけだ!」
「え、な……」
 一歩前に進み、言うべきを知らず口をぱくぱくさせるセピアを肩で押しのけ、男に相対する。
「……それが君の意志か。
兄の身を案じる妹の心を踏みにじってまでの選択がそれとは――最悪だな」
 男の態度から鷹揚さが無くなっていた。
 憤りを湛えた殺気でレッドを見据えている。
「彼女は君の無力感を贖うための犠牲(ヴィクティム)ではない。
君の飽くなき闘争心は驚嘆に値するが、同時に極めて危険だと言わざるを得ない。
ここで君を殪す。君のその傲慢を――断たせてもらう」
 男は引く腰を落とし、刀を上段に構える。一切の表情が失せ、研ぎ澄まされた攻撃意欲が取って代わる。
 それは己を刃たらしめる、透徹した集中力の顕れだった。必殺、という概念の体現だった。

67 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 04:17:53 ID:cThu7dmBO
「レッド……!」
 涙の後が残る横顔をレッドに向け、セピアは彼の無謀じみた行動を引き止めようとするが、その身体はびくともしない。
「最後に聞くが……正気かね?
君のARMSは使い物にならない、『使う』という意味ではキース・セピアくんのも同様だ。
それでも私と戦うと? そんなにも、あの無秩序な破壊を望んでいるのか?
ARMSの……『アリス』の絶望に身を委ねることが、君の本望なのか?」
「くどい! てめーの説教にはうんざりだ!
そうさ……オレは力が欲しいんだよ!」
「愚かな――」
 呟き、男は瞑目した。
 まるで力に溺れて死を招くレッドの最後を、今この目で見て悼んでいるかのように。
 修羅の如き烈火の気性を、果てなき力への渇望を悲しむように。
 そして、その初動を背中の皮膚で察知したセピアが反応を見せるよりもさらに疾く――神速の踏み込みとともに男の刀が一閃した。
 『グリフォン』が機能不全に陥っているため、腕をブレードに変形させて防御することすら不可能ななか、
レッドは弧を描いて寸分違わず己の首筋へ進む光の軌跡を見ていた。
 そしてまた、セピアが身代わりを申し出たときの――自分に背を向けてこっそり泣いていたときの、
自分の内に沸き起こった思いを甦らせていた。
(なぜだろう――)
 なぜ、そんなことを言うセピアの細い肩を、小さな背中を見ていたら――こんな堪らない気持ちになるのだろう、と。
「――愚かでも構わない」
「なに――」
 男の声が、ほんの僅か、僅かだけ、「信じられない」というふうに揺れた。
 男の呼吸を直に感じる距離で、セピアもまた驚愕に目を見開いていた。
 使い手の腕と状況次第では鉄をも裁つ日本刀の――その直刃を、レッドは花でも摘むような無造作さで掴んでいた。
 ――メタモルフォーゼすらしていない、素手のままで。

68 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 04:36:22 ID:cThu7dmBO
「……てめえも、ウチの兄貴と同じだ。
自分の『強さ』だけが正しいと思っていやがる」
 かちかちとなにかが小刻みに震えていた。
 それは男の手にした刀だった。レッドが掴む刃だった。
 その振幅は徐々に高まり、やがて生物が生み出すことの不可能な――機械でなければ生じさせることができない激しさに至る。
「君のARMSは電撃から回復していないはずだ……。振動兵器を構築できるはずがない」
 そう――そのはずだった。
 ナノマシンが配列を変換させて目的に応じた機構を形成できなければ、いかなる特殊能力も発現できない。
 剣の機能を欲するなら剣の形に、大砲の機能を欲するなら大砲の形に。
 それがナノマシン兵器『ARMS』の各種機能の前提だった。
 もし例外があるとするなら――、
「『震動子(トランジューサー)』……。
ナノマシンそれ自体を振動兵器に……この土壇場で……?」
 そんな男の感嘆混じりの囁きも、今のレッドには聞こえていない。
「ふざけんな、どいつもこいつも……!
てめえらになにが分かる……『使えない』と思われるってことが……それがどういうことか分かるのかよ!」
 自分は無力だった。
 だから『力』を求めた。
 だが……『力』があることもまた無力だということを知った。
 『力』の持ち主をして「本当のものなんかなにもいらない」と言わしめるものが、『強さ』であるわけがなかった。
 ならば、本当の『強さ』、『力』はどこにあるのだろう?
 強くなりたい――。
 『本当のもの』をあいつに教えてやるために。
 欠陥品ばかりが容赦なく淘汰されていくこの世界で生きていくために。

“『力』が欲しいか――?”

(ああ……『力』が欲しい――!)

“『力』が欲しいのなら――くれてやる!”

69 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 04:50:45 ID:cThu7dmBO
 
「なんと――」
 刀を粉微塵に握り潰したレッドを目の当たりにし、男は咄嗟に柄を顔面の位置まで引き上げる。
 まさにその箇所、男の人間業ではない反応速度でなければモロに顔面直撃のコースに、レッドの拳が飛ぶ。
 柄は脆くもばらばらに砕け、男の指の骨も数本が鈍い音がしてありえない歪みを生じさせた。
「…………!」
 ここにきて、遂に男が純粋な後退行動を取る。
 飛びのくようにその場をのき、レッドの腕の届かない距離へと移動する。
「勝手なこと抜かすな……敵に説教されるほど落ちぶれちゃいねえ!
セピアのARMSをどう扱うかはてめーにゃ関係ないんだよ!
オレは負けねえ! てめーにも、ブラックの野郎にも――ARMSにも!」
 レッドのやけくそみたいな咆哮に、男が虚をつかれたように動きを止めた。
 今初めてレッドに出会ったかのような、驚きに満ちた表情だった。
 だがそれもすぐに消え、戦士として洗練された姿――隙というものがまるでない構えでレッドの正面に立つ。
 はっきり言って勝てるイメージは沸かない。
 さっきは怒りに任せてぶん殴ったら当たったが、次は当たらないだろう。
 経験も、センスも、技能も、全て相手が遥かに上回っている。それは確実だった。
 だが、引く気はない。まったくない。
 殺すとか倒すとかいう考えは消え失せて、今あるのは
「どうやったらこいつに思い知らせてやれるか」という、ただそれだけのことだった。
 なんかごちゃごちゃしててよく分からないが、目の前のニンジャ野郎を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしてやらねば気が済まないのは確実だった。
 そして、そのために必要なものは――、
 レッドの背中になにかが触れる。
 それはおそらく少女くらいの背丈のなにかの両手のような代物だと思われるものだと、温かな感触が伝えていた。
 だから、そちらを見ずに言う。
「セピア」
「え?」
「オレのそばから離れるな」
「――はい」
 おそらく少女くらいの背丈のなにかの額のような代物だと思われる温かいものが、そっとレッドの背中に押し付けられた。

70 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 05:09:17 ID:cThu7dmBO
 ――予想に反して、男はなかなか動きを見せなかった。
 時間が経てば経つほど、『グリフォン』が電撃のダメージから回復して、男のアドバンテージが減少するにもかかわらず。
 さすがにレッドも訝しく思う。
「どーした、ニンジャ野郎。怖じけづいたのか?」
 だが男はそれには答えず、
「……まさか、キース・ブラックは試しているのか……? しかし、いったいなんの目的で……」
 などと意味不明の呟きが返ってくる。
 だがその半面、男の視線は満遍なくレッドに注がれている。
 それはレッドを警戒してるというよりは、レッドとセピアを――、
いや、二人の行く末を心から案じているような、そんな不思議な視線だった。
「おい――」
 そんな視線にむずむずしたのと、奇妙な緊張感に苛立ったことでレッドが声を荒くしたその時、男の懐から低い振動音がした。
「む――失礼。商用の電話だ」
「…………」
 怒りを通り越して呆れるしかないレッドへ、男は今や敵意の欠片もない気安さでウィンクする。
「単身赴任のサラリーマンは多忙なのさ」
 だが、
「――なんだと、鐙沢村が!?」
 男の顔が瞬時に険しくなった。
 通話の内容はレッドには聞こえないが、なにやら相手口が切羽詰まってる雰囲気だけは伝わってくる。
「修一郎と連絡は取れないのか? ――分かった。隼人くんを最優先で保護してくれ。私もすぐに向かう。
……ああ、おそらく崖だろう。すまない――私の責任だ」
 ぼそぼそと、だが急き込んだ様子で会話を終了させた男が、通信機の仕舞いしなにこちらを振り向く。
 その眼差しにレッドはちょっと驚いた。
 とんでもなく不屈で、普通人でありながらARMS適応者を手玉に取り、静かな威厳を湛えていたこの男が――、
まるで想像できなかった、少し疲れたような陰を浮かべていた。
「残念だが……ここでお別れだ。私は撤退させてもらう」
「あ? なにを自己中な――」
「君の意志の強さは見事だ」
 陰を振り払うようなきっぱりとした宣言に、レッドは呑まれて抗議の言葉を切らす。

71 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 05:46:42 ID:cThu7dmBO
「特に……『人間はARMSに負けない』、そう言い切る君の志の高さには敬服したよ。
願わくば、その意志がいつまでも続き、『ARMS計画(プロジェクト・アームズ)』――その悪魔の意志を撃ち破る日が来ることを」
 そう言って、男は僅かに横に身をずらす。
 すると、男の背後に隠れていた夕日が――いつの間にか夕暮れになっていて、
強烈な西日がトンネル出口に差し込まれており――レッドの瞳に突き刺さった。
「く……」
 目のくらんだレッドは手で顔を覆い、光に適応するころには――、
 男の姿はもはや陰も形もなく、ただ静かな風が吹いていた。


 セピアと並んでトンネルの外に出る。
 茜色の太陽が西の空を赤く染めていた。
「……あー、くそ、散々な遠足だったぜ」
 線路に腰掛けて呻くレッドの隣にセピアがゆっくり腰掛ける。
「わたしも、疲れた、かな」
 横殴りの風に流されてバランスを崩したのか、小さな頭がレッドの肩にもたれ掛かった。
 そのままセピアは動こうとしない。
 引きはがそうとしたが――その顔色が紙のように蒼白なのに気付く。
 トンネルのなかではそんな顔色までは読み取れなかった。
「おい――」
「うん、大丈夫……ちょっと疲れただけ……」
 紫の唇で言われてもまるで説得力がなかった。
「あ、頭、重いよね」
 首を持ち上げようとするセピアを、掌の小鳥を逃がさない要領で肩を沈めて反動を殺し、そのままにさせた。
「…………」
 セピアはちょっと目をぱちぱちさせたが、すぐに目を細めて体重をレッドに預けた。

72 :ヴィクティム・レッド:2008/08/21(木) 06:19:24 ID:cThu7dmBO
 そして、しばらく二人は黙って夕日を眺めていたが、まったく唐突にぽつりとセピアが掠れ声で囁く。
「――Sの前はRなの」
「……なんだと?」
「名前の話」
 アルファベットの並び順と、レッドとセピアのことだろうか。
 だからなんだと言いたかったが、なんとなく黙ってることにした。
 セピアがなんかもぞもぞやってるのでそちらを見ると、ポケットから金色の指輪を取り出して夕日にかざしている。
 それはあの指輪だった。
 命と等しい価値を持ったもの――最後まで捨て切れなかったもの――かつてセピアの姉妹だった少女の忘れ形見。
 本物の金無垢だった。
 この世界を照らすヴァーミリオンの光を受けて、それは輝いていた。
 鳩の血(ピジョン・ブラッド)のように、蠍の心臓(アンタレス)のように、神々の黄昏(ラグナロク)のように。
「セーラ」
 再び掠れた声で、今度は少し面映ゆそうに。
「それがシャーロットが付けてくれた名前。
マテリアルナンバーでもなくてカラーネームでもない、わたしの本当の名前」
 レッドは黙っていた。セピアも、特に感想を求めることはしなかった。
 その代わりに、
「Sの前はRなの。名前の話」
 さっきと同じことを繰り返す。
 『セーラ』の頭文字がSであることは、レッドにも分かりきっていることだった。
 そして、少し血の気が戻った桜色の唇で、セピアは大切な呪文(スペル)を唱えるように、ある短い綴り(スペル)を口にした。
「――――」
 ごう、とやや強い風が吹き、あたりに枯れ葉が舞う。
「……なんだと?」
 とレッドが聞き返しても、もうセピアは答えない。
 安心しきった穏やかな顔をレッドの肩に載せたまま、悪夢など及びもつかない柔らかい寝息をすうすうと立てていた。


第十一話 『風』 了

73 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2008/08/21(木) 07:44:54 ID:cThu7dmBO
物価高の煽りを受けて家計が火炎大車輪、まだニューパソ買えてません。
そんで不手腐れてKH2クリティカルLV1攻略とかやってました。
そんなわけで夏までの復活無理でした。
これは復活つーかなんつーか、未練たらしく墓場から書いてるようなもんです。

ロンギヌスの槍頑張って下さい。
ミナガーファンてして、またビリー龍ファンとして全力で応援してます。
オリキャラがまたツボ押さえてて憎たらしい。

74 :作者の都合により名無しです:2008/08/21(木) 10:14:18 ID:fqLxEFn00
復活ブームか?
VSさん、ぽんさん、ハロイさんと。
ぽんさん完結お疲れ様です。また新作お願いします!
ハロイさん、またクオリティの高い物語をお願いします!

75 :作者の都合により名無しです:2008/08/21(木) 13:11:16 ID:Khjip2q20
ハロイさんお久しぶりです。
物語の核というか、筋道が一本通った回でしたな。
ブラック、レッド、セピア、巌、そしてカツミ。
少しずつクライマックスに近づくにつれて
セピアの存在のが切なく感じますな。
キースシリーズにも恐れられる静かなる狼かっこいい。

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